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「アルバムのために、この地域へ行く」──いま、Web3が旅の動機になっている。
大手旅行会社のHISは、2022年頃からWeb3事業を続けてきた企業だ。最近では対戦型写真アプリ「SNPIT」との協業でコラボカメラNFTやスタンプラリーアルバムNFTなどの企画を次々と展開。
その結果、全国の様々なポイントに足を運び、47都道府県を踏破した熱狂的なユーザーが現れているという。つまり、SNPITをきっかけに新たな旅行体験が生まれているのだ。
ブロックチェーンはHISにどのような変化をもたらすのか。これまでの取り組みやステーブルコイン活用の可能性までを同社の山谷和洋氏に聞いた。
【プロフィール】
山谷 和洋
株式会社エイチ・アイ・エス 新規事業統括本部
Web3事業グループリーダー
2001年入社。2022年に新規事業として旅行と地域創生を軸とした「Web3プロジェクト」を立ち上げる。「写真×旅行」の親和性に着目し、対戦型写真アプリ「SNPIT」との協業を推進している。
「写真×旅行」の構想からSNPITとの協業へ
NFTMedia編集部(以下、編集部):まず、SNPITとはどのような取り組みを進めているのでしょうか。
山谷和洋氏(以下、山谷):HISは、このSNPITと組んで、カメラNFTを活用した新たな旅のあり方「Travel to Earn」を広げる取り組みを進めています。
2025年1月には、HISモデルのコラボカメラNFTをアプリ内で無料配布しました。これは、既存ユーザー・新規ユーザーを問わず、アプリをインストールすれば誰でも取得できるカメラです。
編集部:この後も継続的にさまざまな取り組みを行っていますよね。
山谷:はい。2025年2月からは、全国7エリア、50の都道府県・地域を対象にしたスタンプラリーアルバムNFTを販売しています。
現地で撮影した写真を各アルバムに最大10枚まで格納でき、エリア内のすべての都道府県を埋めると特別なバッジを、7エリアすべてのバッジを集めると「全国踏破の証」を獲得できる仕組みです。
HISの主力である旅行事業において、Web3で新しい体験価値の創造に挑戦し、地域の活性化につなげていくこと。それが、SNPITとの協業で目指しているところです。
編集部:どのようなきっかけで、SNPITとの取り組みがスタートしたのでしょうか。
山谷:最初は、SNPITがサービスを始めるという話を聞いたことがきっかけでした。
実は、もともと私自身が、UGCと報酬を組み合わせたTravel to Earnのようなサービスを作りたいと考えていたんです。そうした中でSNPITの存在を知り、こちらからコンタクトを取りました。
写真と旅行は、非常に相性が良いんですよね。それで「一緒にやりませんか」と声をかけたところ、協業が始まりました。
編集部:HISがWeb3の流行に合わせてSNPITを選んだというより、以前から考えていた「写真×旅行」の構想と、SNPITが重なったのですね。
山谷:そうですね。これまで、HISコラボカメラを出したり、スタンプラリーアルバムというNFTを展開したりしてきました。全国を回りながら写真を撮ってもらい、旅行へ出かけるきっかけを作る取り組みです。
SNPITの中でアイテムを提供する形が中心でしたが、今後はさらに踏み込み、実際に旅行へ行って写真を撮ってもらう仕組み自体を、一緒に作っていこうという段階に入っています。
全国踏破者が10人超、予想を上回ったユーザーの熱量
編集部:スタンプラリーの取り組みを通じて、実際に利用しているユーザーの行動や熱量をどのように感じていますか。
山谷:とても熱量の高い方が多く、正直驚きました。
スタンプラリーアルバムは、全国7エリア、50の都道府県・地域を対象に展開しています。北海道は道央、道北、道東、道南の4地域に分かれています。7種類のアルバムをそろえ、全47都道府県を回って写真を集めた方が、2026年7月時点ですでに10人を超えているんです。
編集部:当初から、そこまで早く全国を回るユーザーが現れると予想していましたか。
山谷:いいえ。サービスを出す時点では、「全国を回り切る人は、そうそういないだろう」「本当にそんな人が現れるのかな」と考えていました。
一生かけて楽しんでもらえればよい、というくらいの感覚だったんです。それが、リリースからそれほど時間がたたないうちに、10人を超える方が全国を回ってくれました。
編集部:ゲーム内で最も難易度の高い金バッジを目指す場合は、対象エリア内の全都道府県・地域を埋めたうえで、アルバムの10枠すべてを、格納時点で一度以上バトルに勝利している写真でそろえる必要があります。単に現地へ行くだけではないのですね。
山谷:そうなんです。ただ全国を回るだけではなく、各地域で写真バトルに挑戦して、勝利した写真を集めている方もいます。人によっては、同じ場所へ複数回行くケースもあるでしょうね。
SNSを見ていても、「アルバムのために、これからこの地域へ行く」といった投稿があります。皆さんの旅行の動機になっていることは、非常にうれしいです。
編集部:ユーザー同士で、旅行先について情報を共有するようなコミュニティも生まれているのでしょうか。
山谷:そうですね。もともとSNPIT自体にコミュニティがあるので、その中でのやり取りがあります。写真やゲームだけでなく、旅行をきっかけにした交流にもつながっていると感じています。
ルーレットで決まった地域が、次の旅行先になる
編集部:HISコラボカメラには、毎月1回、無料でルーレットを回せる機能もあります。どのような仕組みでしょうか。
山谷:ルーレットでは、対象となる都道府県、強化されるパラメータの種類、その上昇率が決まります。
対象となった都道府県で撮影すると、報酬が増えるなどの効果を得られる仕組みです。
例えば群馬県が選ばれたことで、「今回は群馬県へ行ってきます」というユーザーもいました。スタンプラリーとは別に、新しい旅行の動機を作れているんですよね。
編集部:カメラNFTやアルバムNFTによって、ユーザーの移動距離や人の流れにも変化が生まれているのでしょうか。
山谷:移動距離や人流の変化を具体的に計測しているわけではありませんが、間違いなく生まれていると感じています。
編集部:通常のSNPITであれば、近場で良い写真を撮ることでも楽しめます。一方、HISのカメラやアルバムには、特定の地域へ向かう理由が組み込まれていると。
山谷:そうですね。HISコラボカメラであれば、「この都道府県へ行けば報酬が増える」という動機を作れます。スタンプラリーでも、アルバムの空いている地域へ行く必要があるんです。
どこでもよいわけではなく、「空いている場所へ行く」という動きが生まれる。移動の機会は増えていると感じています。
編集部:SNPITとの協業において、企画やマーケティングはHIS主導なのでしょうか。それともSNPIT側でしょうか。
山谷:これらの企画やマーケティングに関しては共同ですね。お互いに意見を出し合いながら、一緒に作り上げています。
写真から旅行予約へ、収益を分配する「たびシェア」
編集部:今後は、これまでより踏み込んだ連携も検討されているとのことですが、どのような構想でしょうか。
山谷:「たびシェア」という名前で、写真を撮り、自分が行った旅をシェアするサービスを考えています。
SNPITに投稿された写真は、その地域のPRにもなります。写真を見た人が「ここはきれいだな」「行ってみたいな」と思ったとき、その写真をタップすると、その観光施設の予約に進める動線を作ろうと考えています。
編集部:利用者が投稿した写真を見て旅行先を知り、そのままHISの商品を予約できる仕組みですね。
山谷:はい。「たびシェア」を通じてホテルや観光施設が予約されると、施設側から販売手数料をいただきます。その一部を、地域や施設の魅力を発信したユーザーへ還元できないかと考えています。
編集部:収益は、どのユーザーに分配するのでしょうか。
山谷:指定されたロケーションでアンバサダーとなった方です。アンバサダーとして施設や周辺環境をPRし、その過程で予約が発生すれば、収益の一部を分配するというイメージですね。
編集部:アンバサダーの選出にも、SNPITの写真バトルを活用するということでしょうか?
山谷:そう考えています。どちらの写真が、その施設や観光地の魅力をよりうまく伝えているかという観点でバトルをしてもらう。勝った方が、その場所のアンバサダーになる仕組みです。ライバルに勝ち抜いた素晴らしい写真は、地域や施設にとって最大のPRとなります。
そして、アンバサダーとなっている期間に、その人の写真を経由して予約が発生すれば、収益を分配する。そうした循環を作りたいんです。
編集部:写真を撮る人、写真を見て旅行する人、ホテルや観光施設のそれぞれに価値が生まれる仕組みですね。
山谷:そうですね。地域の魅力をきれいに撮り、発信した人の貢献が、報酬として返ってくるようなエコサイクルを目指しています。
SNPITが成功した理由は、既存コミュニティの存在
編集部:そうなると、SNPITとの取り組みがうまくいっている理由が気になります。従来のNFT販売とは何が違ったのでしょうか。
山谷:SNPITには、もともとゲームを利用しているコミュニティが存在していたことが大きいと思います。
ブロックチェーンゲームに慣れている方々が、すでにSNPITを利用していました。その中でHISがコラボアイテムを出したため、既存のユーザーへ自然に届けることができたんです。
編集部:HISが単独でNFTを販売した際は、Web3について一から説明しなければなりませんでした。
一方、SNPITには、カメラや写真バトルの仕組みを理解しているユーザーがすでにいたということですね。
山谷:そうですね。また、SNPIT始めるきっかけがなかった方をHISとのコラボによって呼び込めた部分もあります。
SNPITとHISが、それぞれのユーザーを持ち寄れたことが、成功した理由の一つではないでしょうか。
将来的にはステーブルコイン決済対応も検討
編集部:従来の旅行商品の販売と異なり、Web3プロジェクトには将来への投資という意味合いもあります。プロジェクトの成否を判定するのは難しいですが、HISではどのようにKPIを設定していますか。
山谷:プロジェクトごとに新規ユーザー獲得や投稿数など細かなKPIを設定しています。
編集部:「この数値が伸びれば、将来の顧客獲得につながる」といった、Web3独自の指標はありますか。
山谷:新たな顧客獲得という点で言えば、今後の活用としてはステーブルコインも検討していきたいです。
HISがステーブルコイン決済に対応すれば、すでにステーブルコインを利用している層を、新たな顧客として呼び込めるかもしれません。また、HISには海外拠点があるため、拠点間の資金のやり取りを効率化できる可能性もあります。
これまでのSNPITとの施策とは異なる取り組みですが、同じWeb3の枠組みとして活用を検討していきたいところです。
編集部:ステーブルコインが一般の顧客にも広がる未来を見据えていますか。
山谷:そうですね。仮に日本で一般に広く普及しなかったとしても、すでに利用している方はいらっしゃいます。特に海外では凄い勢いで広がっていますので、インバウンドの限られたセグメントだけであっても、そうした方々を新たな顧客として呼び込めるのであれば、検討する価値はあると考えています。
「Web3の冬」でも事業を継続できた理由
編集部:Web3事業を立ち上げた2022年当時まで時間を戻せるとしたら、「最初から変えたい」と思うことはありますか。
山谷:答えになっているか分かりませんが、もっとWeb3が普及すると思っていました。
マスアダプションが進むと考えていましたが、意外と進まなかったというのが率直な印象です。
編集部:当時は、Web3やメタバースが大きな注目を集めていましたね。
山谷:そうですね。私も、Web3やメタバースには大きな可能性があると考えていました。コロナ禍でもあったため、「この流れは絶対に来る」と思って事業を始めたんです。
ところが、その後は行動制限の緩和などにより社会活動が平常化し、メタバースへの注目も落ち着きました。Web3への関心はしばらく続きましたが、生成AIが登場すると、一気にAIへ関心が移った印象があります。
編集部:当初想定していた速度では、社会に浸透しなかったと。
山谷:そうですね。思っていたよりも浸透していないと、途中で感じました。
ただ最近では、「AIが発展するからこそ、Web3も必要になる」という考え方も出ています。Web3という言葉自体は使われなくなると言う方もいますが、オンチェーン技術として確実に残っていくでしょうね。
編集部:2022年のブームが終わった後、Web3事業から撤退した企業も少なくありません。いわゆる「Web3の冬」をどのように乗り越えたのでしょうか。
山谷:事業を始めた頃と社内の反応はあまり変わりませんでした。
編集部:「何をしているのかはよく分からないけれど、何か新しいことをやっている」と。
山谷:そうかもしれません。そんな中でもSNPITとの共同事業や、FiNANCiEの地域応援トークンは少しづつではありますが社内の認知も進み、結果的には、市場の浮き沈みに左右されずに、事業を継続できた理由の一つになったのかもしれません。
「たびシェア」で地域課題の解決を目指す
編集部:最後に、今後の展開について教えてください。
山谷:まず足元では、先ほどお話しした「たびシェア(仮称)」をサービスとしてリリースしたいですね。
SNPITとの連携をさらに深め、このモデルをさまざまな地域へ広げていきたいと考えています。
編集部:地域に人が来ない、地域の魅力が知られていないといった課題の解決にもつなげていくのでしょうか。
山谷:そうですね。観光という文脈では、まだ知られていない観光地の発掘や、人の往来を増やすことに、Web3のゲームや仕組みを活用できるはずです。また、ステーブルコインなどによる新しい経済圏を使って、これまでにない旅行体験や新たな価値の創出にもつなげたいと考えています。
少し抽象的な表現にはなりますが、Web3を使って、さまざまな価値を作っていきたいというのが今後の方向性です。
編集部:本日は貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを終えて
SNPITとの協業では、既存コミュニティと旅行体験を組み合わせたことで、全国を回るユーザーまで現れている。Web3施策では、商品の設計だけでなく、誰に、どのような体験として届けるかが重要なのだろう。
今後の注目は、写真から旅行予約へつなぎ、地域の魅力を発信したユーザーへ収益を還元する「たびシェア」構想だ。SNPITの熱量を地域課題の解決や新たな旅行需要へつなげられれば、旅行業とWeb3を組み合わせた一つのモデルケースになり得る。山谷氏が続ける、地に足のついた挑戦の行方を見守りたい。
- 株式会社エイチ・アイ・エス 公式サイト:https://his-wvp.com/
- 株式会社エイチ・アイ・エス 公式X :https://x.com/HISweb3
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