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【独自取材】水面下で進むステーブルコイン普及に向けた取り組みとは?SingulaNetの町浩二氏に聞いた

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SingulaNet株式会社は2019年の設立以来、ブロックチェーン技術を活用したプラットフォーム開発を展開し、特許技術を用いた安全な認証方式やデジタルコンテンツ流通サービスを提供してきた。現在はその知見を活かし、ステーブルコインの事業企画やシステム化計画の策定を支援するサービスを主軸に据えている。

しかし、このようなステーブルコインに関する取り組みは、SingulaNetに限らず、どの会社も情報発信に積極的ではない印象を受ける。実際に、SingulaNetではイベント出展や営業活動を一切行っていないという。

その一方で、水面下では多くの企業がステーブルコイン普及に向けた準備を静かに進めているようだ。一体我々の知らないところで、どのような取り組みが進行しているのか。

本記事では、SingulaNetの代表取締役である町 浩二氏に、ステーブルコイン市場へ注力する背景、表舞台には出ない金融機関との協業の裏側について伺った。

町 浩二(まち・こうじ)
SingulaNet株式会社 代表取締役社長

金融システムコンサルタントとしてアクセンチュアで10年以上のエンジニアリングを経験。その後、ベイカレント・コンサルティングにて企業のセキュリティ強化・イノベーション推進プロジェクトに従事。2016年頃から個人でブロックチェーン技術の研究を開始し、2019年6月、ブロックチェーンの社会実装をテーマにSingulaNet株式会社を設立。

SingulaNetの事業とは

NFTMedia編集部(以下、編集部):まず、SingulaNetの事業内容を教えてください。

町浩二(以下、町):当社は2019年6月に設立された、ブロックチェーンを応用したトータルソリューションを提供している会社です。

ブロックチェーン技術を活用したプラットフォーム開発を得意としていて、技術ノウハウを蓄積しながらデジタルコンテンツ流通の支援を行ってきました。

編集部:これまでには、どのような取り組みをされているのでしょうか。

町:2019年12月に取り組んだ事例のひとつが、博報堂と共同で展開した「LiveTV-Show」というエンタメD2Cサービスです。

アーティストのファンコミュニティ活動を支援するマネタイズプラットフォームで、ライブ配信でのギフティングや有料配信に加えて、発行数量を限定した「デジタル・レア・コンテンツ」をNFTとして販売できます。

二次流通市場での再販売も可能なので、アーティストにとって新たな収益機会をつくる目的で構築されました。

編集部:その他には、どのようなプロジェクトに参画されましたか。

町:2024年にはクリエイターエコノミーサービス「FUNS COLLECTION」も開始しました。これは、推し活のエコシステムを広げる取り組みです。

FUNS COLLECTION

SNSなどの配信プラットフォームはアルゴリズムに依存しがちで、ルール変更によってクリエイターの活動継続が困難になるリスクもあります。また、プラットフォーム手数料が高く、報酬が低いという課題がありました。

これを解決するために、応援購入型のクラウドファンディング形式でコンテンツを販売できる仕組みを作ったんです。

編集部:この「FUNS COLLECTION」にも、ブロックチェーン技術が活用されているのですね。

町:はい。裏側の技術として、ガス代が不要な「Sanpō」ブロックチェーンを採用しています。とはいえユーザーは暗号資産の購入といった難しい手続きを一切することなく、改ざんのない安全な環境でコンテンツを受け取ることができます。

編集部:クリエイターを支援する仕組みとして、非常に魅力的ですね。

エンタメから決済の世界へ

編集部:町さんはもともと、どのような経緯でブロックチェーンに関わるようになったのでしょうか。

町:ブロックチェーンとの関わりは長くて、2016年頃から個人でいろいろと触っていました。ビットコイン、イーサリアム、リップル関連に興味を持っていて、特にイーサリアム上では趣味の延長線上でコードを書いたりしていたんです。

当時はビットコインに関心を持つ人がほとんどで、身の回りは9割くらいが投資家・投機家でした。その後、2019年にはブロックチェーンを事業化するためにSingulaNetを立ち上げて、最初の3年ほどはさまざまな日本企業とPoCを進めてきました。

編集部:先ほどの「LiveTV-Show」も、この頃の取り組みですね。

町:そうです。そして2020年前後からはNFTに注目し、漫画やアニメ、音楽といったコンテンツ業界で権利保全に活用できるのではないかと研究開発に取り組んできました。僕自身はもともと技術者だったのですが、いろいろ企画をしていく中で開発主体から企画運営にシフトしてきた感じですね。

編集部:現在も、漫画やアニメといったエンタメコンテンツを主軸としているのでしょうか。

町:いいえ。2025年からは徐々にステーブルコイン関連の案件が増えてきまして、直近で最も注力しているのがステーブルコインの導入支援事業です。特に、金融機関向けに事業企画やシステム化の支援を行っています。

編集部:金融機関向けのステーブルコイン導入支援について、具体的にどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

町:当社はもともとWeb3を社会にどう実装するかという企画立案をやってきたので、その知見をベースにステーブルコインの事業企画から実行計画の策定までを支援しています。

支援の内容としては大きく3つです。「ユースケースの開発」、「事業計画の作成」、そして「システム化計画の策定」ですね。ステーブルコインを事業化するかどうか検討している段階から、幅広いテーマでご一緒しています。

編集部:金融機関でのユースケース開発とは、具体的にどういったものを想定されているのでしょうか。

町:具体例として、次の3つの活用方法が挙げられます。

1つ目が、リアルタイム送金と送金コストの低減です。従来の送金にかかっていたコストや時間を大きく圧縮できる活用方法で、最も現実的に立ち上がってくるのがこの領域だと見ています。

2つ目が、トークン化商品との連動サービスです。セキュリティトークンなどの発行体も入ってきて、専用の取引所を介してトークンの売買が行われる。さらに、スマートコントラクトを通じて利息や配当が保有者に分配されていく、という構造です。

3つ目が、コマース決済の多様化です。消費者が店舗でそのままステーブルコインにより決済できる。いわゆる「気がついたら決済に使っていた」というユースケースですね。

編集部:単に「送金に使える」というだけでなく、決済やトークンとの連動まで含めて事業ごとに設計が変わってくるわけですね。

町:そうなんです。ステーブルコインと一口に言っても、送金なのか、決済なのか、あるいはトークン化商品との連動なのかで、必要になるプレイヤーもシステムの組み方も全然変わってきます。

だからこそ、ステーブルコインの導入支援では「まずどのユースケースで、どんな座組みで始めるのか」というところから一緒に伴走していくことが大事です。金融機関は当局対応やセキュリティの要件も厳しいので、そこも含めて一気通貫で支援できるのが当社の強みですね。

専門メディアでステーブルコインの「今」を伝える

編集部:2026年4月には、「日本のステーブルコイン業界カオスマップ」が発表されました。このカオスマップ公開には、どのような背景があったのでしょうか。

※参考 プレスリリース Stablecoin Intelligence Japan サービス開始および日本のステーブルコイン業界カオスマップ公表のお知らせ

町:自社のための研究内容をせっかくなので体系化して公開した形です。

2025年頃から、とある企業と共同でステーブルコインの研究を始めていました。なかでも私が注目したのは、新しくライセンス制度としてスタートした「電子決済手段等取引業」、いわゆる電取業です。

編集部:電取業に注目されたのは、なぜですか。

町:この電取業がステーブルコインの流通を担うことで、日本のステーブルコイン流通の中核業態になっていくだろうと予想したからです。

そこで電取業に焦点を当てて、マーケットがどう組成されるのか、どういう座組なら実際にステーブルコインが活用されるのかと続けてきました。そして1年以上研究を続ける中で、さまざまな事業者の特徴も分かってきたのです。

要するに自分たちのためのリサーチだったのですが、「せっかくだから公表した方が良いだろう」と考え、カオスマップとして公開しました。

編集部:社内のリサーチから生まれたのですね。カオスマップにあわせて「Stablecoin Intelligence Japan」というWebサイトも公開されましたね。このサイトでは、どのような情報を発信されているのでしょうか。

町:国内外の主要メディアからステーブルコイン関連のニュースを網羅的に収集し、ファクトチェックを行った上で日本語の要約記事として配信しています。

Stablecoin Intelligence Japanのトップ画面

「規制・法制度」「市場動向」「ユースケース」など5つのカテゴリに分類しているので、効率的な情報収集が可能です。

編集部:1日に3本ほど配信されているので、タイムリーな情報収集ができますね。

町:おっしゃる通りです。また、DefiLlamaのAPIを活用して、米ドルや日本円ペッグなど代表的なステーブルコインの時価総額や価格推移をリアルタイムで確認できるデータダッシュボードも提供しています。

日本語圏にはステーブルコインの専門メディアが事実上存在しなかったので、日本における代表的な情報ハブになることを目指しています。

営業ゼロ、登壇ゼロの「裏方」戦略

編集部:ブロックチェーンのイベントなどで、これまでSingulaNetにお目にかかる機会がありませんでした。展示会やイベントには足を運ばれていますか。

町:実はイベントには一切出席していないんです。登壇しないどころか、イベント自体にも一切足を運びません。表舞台の活動はパートナーである上場企業に任せて、私自身はずっと裏方としてコンテンツやシステムを作り続けているんですよね。

編集部:営業活動はされているのでしょうか。

町:営業もまったくしていません。

ホームページにはステーブルコイン支援のサービスを掲載していますが、これはどちらかというとクラウドファンディングで応援いただいた株主の皆さん向けの情報発信です。支援していただいた方に、「ちゃんとやっていますよ」とアピールする目的での掲載ですね。

クライアントや取引先を通じて案件の相談が届くので、僕は完全に裏方としてプロジェクトを支援する形にしています。

編集部:なぜ、そこまで情報発信を抑えられているのでしょうか。

町:金融機関がクライアントであり、正式発表前の情報公開ができないからです。

実は水面下で金融庁と連携しながら進めている案件も多く、「ニュースとして情報が出るのは避けたい」という意向が強いんですよね。方針が確定し、一般利用が開始される段階になればプロモーションも含めてオープンになっていくはずです。

このような理由から、今は露出を控える方が望ましい状況ですね。

編集部:たしかに、金融機関からすると不用意に情報が流れるリスクは避けたいですもんね。

町:それもありますし、ブロックチェーンの「見え方」の観点からも慎重になるべきだと考えています。

というのも、ステーブルコインは今後広く一般に普及するはずですし、利用者がほとんど意識しないまま「気がついたら使っている」という時代が訪れるはずです。だからこそ、このタイミングでステーブルコインに悪い印象を与えないよう情報発信には注意すべきです。

編集部:イメージが悪化すると、普及の妨げになりますもんね。

町:その通りです。実際のところ、ステーブルコイン市場の主要プレイヤーはかなり限定されているんですよね。金融機関と、そのパートナーとして金融庁から認められるレベルのブロックチェーン企業しかありません。

本当に両手で数えられるほどの企業しかいない状態です。しかも、これらの企業はほとんど情報を発信していないのです。言い換えると、一部の限られたプレイヤー同士がクローズドな環境で市場を形成しつつある状況なんですよ。

編集部:ステーブルコインの取り組みは、水面下で静かに進行しているのですね。

2026年夏がステーブルコインにとっての転換点に

編集部:ステーブルコインを普及させる上で、今後の展開としてどのようなビジョンを描いていますか。

町:主に2つの軸を考えています。

1つ目は、ステーブルコイン発行体となる企業との協業です。「発行体を応援したい」、「一緒に挑戦したい」という想いがあり、既に一部の会社と取り組みを進めています。

2つ目が、電子決済手段等取引業(電取業)との連携ですね。電取業は、明らかに暗号資産取引所とは違う業界を形成するはずです。そこで、そのネットワークの連携や情報交換を盛り上げたいと考えています。

発行体と電取業、この二本柱による広く強力なネットワークの構築が直近の目標です。

編集部:各社が水面下で進めているステーブルコインのプロジェクトは、いつ頃から本格化するのでしょうか。

町:2026年8月以降に本格化すると予想しています。

3メガバンクが共同で進めているステーブルコインは、2026年8月以降にパイロット版としてリリースされるはずです。これをきっかけとして、2027年春頃までに実用化に向けた各社の取り組みが進行するでしょう。

編集部:2026年の夏頃が一つの境目になるのですね。

町:そうです。加えて、いくつかの企業が電取業のライセンス取得を進めているとの情報もありますので、2026年の年末から2027年の夏にかけて業態として始動するはずです。

実業として開始されるまで既に1年間を切っているので、2026年の夏以降から本格的に一般企業とのコミュニケーションも加速していくと予想しています。

ステーブルコインの普及はNFTにとっても追い風に

編集部:ステーブルコインとNFTやトークンが連動し、一般社会に普及していくまでにはどれくらいの時間を要するとお考えですか。

町:おそらく、マス層のユーザーが興味を持てるほどのサービスになるのは、2028年、2029年頃になる気がしています。

というのも、2026年からの1〜2年では送金での用途がメインになるからです。NFT連動やセキュリティトークン(デジタル証券)連動の話もしていた時期はありました。しかし、直近でビジネスとして成立する規模を達成するには、送金用途しかない状況です。

このような理由から、2026年からの1〜2年は送金・支払いに特化したユースケースがメインになると予想します。

編集部:まずは、決済インフラとして普及するということですね。

町:そうです。その先の2027年、2028年頃から証券会社がデジタル証券を拡充させるはずです。

おそらくこの流れの後に、非金融の分野でもう一度NFTに注目が集まるタイミングが訪れるのではないでしょうか。その時には、ステーブルコインとの連動によって「より便利に使える」という体験価値が生まれるはずです。

編集部:ステーブルコインの現在地について、非常に勉強になりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて

「イベントには一切行かない」「営業もしない」──Web3業界では異例とも言える徹底した裏方スタイルを貫くSingulaNet。しかしその言葉の端々からは、金融機関や規制当局と歩調を合わせながら、日本のステーブルコイン市場の中核に深く入り込んでいる様子が伝わってきた。

新たな情報が発信される機会は少ないが、水面下では金融機関とブロックチェーン企業が静かに、そして着実に巨大なインフラを構築している。そして、2026年の夏以降にこの動きは一気に本格化するようだ。その未来が訪れる日を、編集部としても引き続き追いかけていきたい。

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