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生成AIの普及により、大学生の就職活動におけるエントリーシートもAIによって量産される時代が到来した。「学生がAIで履歴書を書き、採用担当者もAIで読む」という状況のなかで、ブロックチェーンによる検証可能な活動履歴に活路を見出す企業が株式会社ODKソリューションズである。
株式会社ODKソリューションズは、1963年創業の東証上場IT企業だ。教育・金融・医療の3分野にITサービスを提供し、受験生の半数以上が利用する日本初の大学横断型受験ポータルサイト『UCARO®』を運営している。なかでも、同社が取り組む人生伴走データプラットフォーム『アプデミー®』では、日常の体験や学びをブロックチェーンに蓄積し、個人の価値を可視化しようと挑戦している。
実際に、インターンシップの実証実験では蓄積された履歴データが後押しとなって採用が成立した。留学生の就職支援の分野では、関西大学において留学生の就職率が4割から6割へと改善した例も報じられている(2019年 日本経済新聞掲載)。
一体、『アプデミー®』ではどのようにしてこのような成果を生んでいるのか。
本記事では、学生の活動を記録する取り組みや、ブロックチェーン活用による効果について、同社の杉本裕夫氏、増田勇仁氏、岡田創吉氏に伺った。
【プロフィール】
杉本 裕夫(すぎもと ひろお)
株式会社ODKソリューションズ アプデミー®/プロジェクト統括
2016年ODKソリューションズに入社。大学入試に関するDX業務を担当後、2022年12月「個人の体験を価値化」するWeb3.0サービス『アプデミー』を立上げ、電通グループと共同研究を開始。
近畿大学における大学生のボランティア活動実績、F.C.大阪での高校生のワークショップ活動実績、落合陽一のサマースクールにおける小学生への卒業証明書NFT(SBT)配布等を支援。蓄積した体験実績を基に、学生一人一人の価値観に基づくキャリア形成支援を目指す。
また、2023年12月より、NFTの保有状況に基づいて権利行使が可能なインセンティブを自動抽出し、自然言語による対話で案内するエージェンシー機能の実証実験を開始。
【プロフィール】
増田 勇仁(ますだ ゆうじん)
株式会社ODKソリューションズ 留学生領域・実証担当
2024年ODKソリューションズに入社。ブロックチェーン技術を活用し、学生の体験実績の蓄積を支援。2025年に大阪・関西万博で実施された「グローバルインターンシップ・宴」(主催:一般社団法人Transcend-Learning)を起点に、留学生の活動履歴の可視化とキャリア形成を開始。
『アプデミー®』でキャリアや資格を可視化する
編集部:最初に、株式会社ODKソリューションズの事業内容を教えてください。
杉本:当社は1963年創業の東証上場企業で、教育・金融・医療の3分野へITサービスを提供しています。
中核となるのが教育分野で、日本初の大学横断型受験ポータルサイト『UCARO®』は、複数大学の出願・受験・合否確認やスケジュール管理を一本化できるサービスとして、いまや受験生の半数以上にご利用いただいています。
このように、学生を対象として受験から大学生活、キャリア形成までを一気通貫で支えるサービス群を展開してきました。
編集部:ブロックチェーン施策としては、どのようなサービスを提供されていますか。
杉本:それが、先ほどご紹介した教育事業の延長線上にある人生伴走データプラットフォーム『アプデミー®』です。
日常の体験や学びをNFTとしてデジタル化・蓄積し、学歴や資格だけでは見えない個人の価値や個性を可視化するサービスです。電通グループとの共同研究のほか、パナソニックHDらのトレーサビリティ基盤開発プロジェクトにも採用されるなど、Web3.0領域での研究開発と社会実装を進めてきました。
編集部:体験の記録であれば通常のデータベースでも実現できそうですが、なぜブロックチェーンなのでしょうか。
杉本:大きく3つの理由があると考えています。
1つ目は改ざん耐性です。ブロックチェーンに刻まれた記録は後から書き換えられません。「いつ、何をしたか」がタイムスタンプ付きで不可逆に積み上がるからこそ、活動履歴が第三者に対する客観的な証明として機能します。
編集部:学生が積み重ねてきた活動を確実に記録できるのですね。
杉本:2つ目は自己主権性です。データをプラットフォーム側ではなく本人が保有し、誰にどこまで開示するかを自分でコントロールできます。
ウォレット接続によって、本人の意思で他社サービスともデータ連携が可能になります。企業間のデータ連携は個人情報保護の観点でハードルが高いですが、自己主権型であれば個人と企業の利用規約の範囲に収まり、世界中で使われている汎用技術の上で連携できるんです。
編集部:企業が個人情報を保有する必要も無くなるのですね。
杉本:そして3つ目は、パブリックブロックチェーンの透明性です。特定の管理者に依存せず、閲覧した企業がその場で記録の真正性を検証できる。この「検証可能性」こそが、生成AI時代に求められる『アプデミー®』の価値だと考えています。
教育×Web3の現在地
編集部:「アプデミー®」β版での実証実験がスタートしたのは、2023年04月ですよね。それ以来活動を続けてこられたと思いますが、2026年7月時点での状況を教えてください。
杉本:正直なところ、教育業界で「ブロックチェーン一択」という状況にはまだなっていません。
いわゆるオープンバッジ(技能・経験のデジタル証明)や、DID・VC(検証可能なデジタル証明書)と呼ばれる領域でも、ようやく大学の卒業証明書に適用される事例がちらほら出てきた、という段階です。
編集部:「教育業界に普及するのはこれから」という段階なのですね。
杉本:本当は、Web3の良さの1つはスマートコントラクトだと思っています。
報酬分配や、データが活用された時に自動でプログラムが動くように機能する部分ですね。ただ、現状そこまで求めている人はまだ少なくて、一旦は「証明できればいい」という温度感のようです。
編集部:なるほど。まずはタイムスタンプとしての機能ということですね。
杉本:そうです。「大学1年生の間にこんな活動をしました」というのがブロックチェーンに刻まれる。この積み上げは不可逆なんです。
3年後、4年後の就活直前にいきなり頑張って「ガクチカ(※)」を盛ろうとする人と、1年生の時からブロックチェーンにタイムスタンプが刻まれてきた人とでは差ができますよね。
そういう使い方をまず実現しようとしています。
※ ガクチカ・・・学生時代に力を入れたこと。就職活動で最も聞かれる質問の一つ。
ウォレットを意識させない──万博"宴~UTAGE~PASSPORT"実証の裏側
編集部:ODKソリューションズでは、デジタル証明に関する領域でブロックチェーンを活用しているとのことでしたね。この他に、直近で取り組んでいる事例はありますか。
増田勇仁(以下、増田):具体的な事例として、2025年の話をさせてください。
大阪・関西万博において、外食産業のパビリオンで開催された「グローバルインターンシップ・宴」の運営に携わりました。これは留学生と日本人学生がタッグを組んでチームになり、さまざまな項目を競って最後に表彰される、というプログラムです。
編集部:「グローバルインターンシップ・宴」とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
増田:留学生の就職活動を支援する「一般社団法人Transcend-Learning」が中心となり、2025年6月から12月頃までキャリア教育も合わせた一連の長期インターンシップです。
その中のイベントや講座、ミッションに参加した学生に対してNFTを配布し、「この学生がこのイベント、この講座に参加した」という履歴をブロックチェーンに刻んでいきました。
なお、このインターンシップには外食産業の企業も協賛として参加しています。
編集部:協賛企業は、どのような形で関わったのでしょうか。
増田: 学生のメンターとして参加いただきました。
学生が困った時に企業の社会人に相談に行き、一緒にご飯を食べながら話す。そういう時にQRコードなどを通じて「相談に行った履歴」をNFT化して、メンターからチームの学生一人ひとりにNFTが配布されるんです。
メタデータには、メンターを識別できるイニシャルや、どんなレクチャーを受けたか、といった情報が記録されています。
編集部:師弟関係がNFTで証明される、というわけですね。結果はいかがでしたか。
増田:インターンシップの表彰式では、頑張った学生が表彰されるのはもちろんですが、インターンの中で配布したNFTをブロックチェーン上でたどると、「この方がよく学生の面倒をみていただいていたね」というのが見えます。
そこで、よく面倒を見てくれたメンターの方も一緒に表彰される、という新しい取り組みができました。頑張った人だけでなく、頑張った人を応援した人にも還元される形です。
編集部:インターンシップ中の取り組みが可視化されるのですね。
増田:そうです。こうして溜まった履歴のデータが後押しとなって、実際に外食産業の企業で採用が1件決まりました。履歴を貯めてブロックチェーン上で可視化し、採用につなげるという、我々がずっとやろうとしてきたことが実証できたのはいい意味で予想外の成果でした。
編集部:実際に就職までつながったのは大きな成果ですね。
トークングラフが記録した関係性のデータ
編集部:大阪・関西万博での取り組みについて、実際にやってみて、想定と違った発見などはありましたか。
杉本:面白かったのは関係性のデータです。
あるお店にメンターと学生に来てもらった時、メンター1人に生徒1人の「1対1」の場合と、メンター1人に生徒6人の「1対6」の場合があったんです。
編集部:メンターと学生の比率が異なるグループがあったのですね。
増田:そうです。NFT発行時のタイムスタンプや発行枚数をブロックチェーンから解析すると、「このメンターと6人の学生がここで会話した」「この学生は1対1で行っているな」というのが見えてきます。
そして、1対1でメンターと話していた学生は、最終的に表彰台に上がったんですよね。社会人と1対1で話すのは学生にとって勇気がいることだと思いますが、そういう密なコミュニケーションが取れた人が成果を出した、というストーリーがデータから解釈できたのは、すごく面白かったです。
反対に、学生の数が多いと一人ひとりへの関与が薄くなってその後伸びなかった、ということも示唆されました。
編集部:どういう交流が起きていたのかを可視化したのですね。この他にも、データからどのような点が読み取れましたか。
杉本:経験値を多く貯めた学生を比較した時に意外だったのは、インターンシップの有無で就職活動の結果に差が出ていた点です。
2025年実施のグローバルインターンシップ・宴の参加者は、その多くがJLPT(日本語能力試験)のN1(最上位ランク)を保有していました。ただ、この層の中ではN1の有無で差は出ませんでした。
編集部:それでは、どのような点で差が付いたのでしょうか。
杉本:インターンシップまで参加している留学生は、明確に就職活動で成果を出しています。インターンシップに参加する留学生は「BJTビジネス日本語能力テスト(日本漢字能力検定協会)」というより実践的な資格を持っている場合も多く、意欲の高さが評価された形です。
留学生の就職率は、日本語教育・ビジネス日本語・インターンシップ・キャリア教育を組み合わせた長年の取り組みによって改善してきました。
関西のとある大学では、留学生の就職率が4割から6割に向上したと報じられています(2019年 日本経済新聞掲載)。今回の実証は、その積み上げを検証可能な形で可視化する試みという位置づけです。
編集部:学生時代の取り組みが、就職活動に大きな影響を与えるのですね。
今年は「TCパスポート」で留学生5,000人へ──AI時代の"検証可能なガクチカ"
編集部:大阪・関西万博での実証実験は、どのような形で今後に活かされるのでしょうか。
杉本:今回の実証実験で得たノウハウをもとにして、「外国人留学生×専門家集団の産学官」のプラットフォームとしてプロダクト化を進めています。
万博の時は「宴~UTAGE~PASSPORT」という名称でしたが、今は「TRACE-CAREER PASSPORT(TCパスポート)」と呼び方を変えてキャリアトレースできる証明書として展開する計画です。
編集部:「TRACE-CAREER PASSPORT」の機能を教えてください。
杉本:「TRACE-CAREER PASSPORT」では活動ごとに参加証明書としてのNFTが発行され、活動履歴を企業側が客観的に確認できます。
とはいえブロックチェーン上の履歴だけを見せても、一般の人には伝わりません。そこで、ポイント制やランクの仕組みを取り入れて、レポート形式で学生の活動を可視化します。
編集部:NFTとポイントの併用なんですね。
杉本:ここは賛否両論あるのですが、Web3業界の人たちからすると一律的なポイント付与はどうなのか、という議論はあります。
ただ我々は分かりやすさ重視で、NFTも配るし、ポイントも経験値のように貯まって進化していく、という二層設計にしました。
編集部:ODKソリューションズでは、ビジネスとしてどう成立させていくのでしょうか。NFT配布ソリューションとして「1枚配るごとにいくら」だと対価の問題で難しいと感じています。
杉本:おっしゃる通りで、単純に「NFTを配布します、トラッキングできます」だけでは、クライアントはそれほどお金を払ってくれません。
そこで我々の場合は、ハイレベル人材の採用につながる「検証可能なデータとレポート」の価値を提供し対価をいただく仕組みです。高度人材を可視化して、その中でも一定レベルに達したことを証明し、検証できることまで担保する。まずはこの部分をビジネス化していきます。
2026年度は、留学生5,000人ほどに使ってもらうことを目標にしています。
編集部:2026年度に留学生5,000人ほどとは、かなり高い目標ですね。それほど急速に普及する見立てがあるのでしょうか。
杉本:はい。その背景にあるのは今の就活事情です。
ガクチカは生成AIにどんどん書かせている状況で、正直、嘘八百のものも多い。一方で評価する企業側もAIを活用している場合が多く、まさに「AIが書いたエントリーシートをAIが読む」状態です。
このような風潮に逆らう動きとして、タイムスタンプで検証可能な活動履歴が企業側にどれだけ受け入れられるかが勝負です。今まさに仕掛かり中ですが、引き合い自体は悪くないです。
スマートコントラクトが実現する新しいお金の流れ
編集部:その先の展開として、どのようなことをお考えですか。
杉本:やはりスマートコントラクトの活用です。
これによりデータが採用活動に活用された時に報酬分配が起きたり、留学生にJPYCを配布できたりと、採用活動のお金の流れが変わるかもしれません。
編集部:例えば、これまで指導してきたメンターに報酬として還元することもできるのですね。
杉本:はい。今までは企業の採用フィーは仲介会社だけがもらっていましたが、ブロックチェーンで検証できる状態にして、採用につながったら関係者に報酬分配が発生するところまで実現したいです。
転職エージェントの世界は年収の何十%という金額が動く世界ですから、スマートコントラクトを活用して貢献した人にお金が入る仕組みを作りたいですね。
編集部:この他にはどのような構想がありますか。
杉本:留学生であれば、仕送りや海外送金の文脈でブロックチェーンを使ってもらう、といったユースケースも考えられます。
暗号資産やステーブルコインをどこまで使えるかは制度面も含めて見極めが必要ですが、システム的には十分対応できるはずです。
編集部:留学生による海外送金は、確かなニーズがありそうですね。
杉本:そしてもう1つ考えているのが、AIエージェントとの壁打ち機能です。
実績証明のNFTはよくありますが、その人が何を考えて、何がしたくて、どういう人になりたいのか。これをブロックチェーン上に記録したいです。
編集部:具体的には、どのような機能でしょうか。
杉本:たとえば同じ英検1級の保有者でも、外交官を目指したいから取った人と、英語が得意だから取得した人では、外交官として就職したあとの定着率が違うはずです。
そこでAIとの壁打ちを通じて、「あの瞬間、こんな思いを持っていた」というタイムスタンプをブロックチェーンに刻んでおくのです。自分で記録した想いと第三者が発行したNFTをうまく組み合わせて、志向と実績の両面で評価できるようにしたいと考えています。
編集部:学生時代のキャリアや経験をもとに、最適な仕事へのマッチングが実現するということですね。これから学生の間に広まっていくのが楽しみですね。
本日はどうもありがとうございました。
インタビューを終えて
「AIが書いた履歴書を、AIが読む」。この言葉は、生成AI時代の採用が抱える課題を的確に突いている。誰もが立派なガクチカを生成できるようになった今、差別化の源泉は文章力ではなく、改ざんできない時間の積み重ねに移りつつあるのかもしれない。
NFTが単なる参加証明を超えて、人と人との関係性の質までデータとして浮かび上がらせた事実は、「体験を価値化する」というアプデミーの世界観に確かな手応えを与えている。
インターンシップからの採用成立という実績を土台として、どのようにアプデミーが普及していくのか。今後の展開に注目していきたい。
- アプデミー®公式サイト:https://www.odk.co.jp/service/updemy/
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