【独自取材】スタートバーン太田氏が語るクリエイティブ保護に向けた挑戦

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スタートバーン株式会社の取締役COO 太田 圭亮氏へのインタビューを行った。同社はブロックチェーン技術を用いた作品・商品の真贋証明や管理のインフラを提供する、日本のWeb3業界を代表する企業だ。

近年、同社のプレスリリースでは大規模なイベントや観光自治体とのデジタルスタンプラリーなど、エンタメ・体験領域での活躍が目立つ。しかし、「水面下ではイベントやアート以外の取り組みも進行している」と太田氏は語る。

美術品の証明から始まった同社のテクノロジーは、今や欧州におけるアパレル業界のトレーサビリティや、伝統的なメディアのデジタル化など、バックグラウンドで社会を支えるインフラへと進化を遂げつつある。

変革期を迎えるスタートバーンの現在地と、その先にある2次流通市場へのビジョンを深く掘り下げた。

太田 圭亮
スタートバーン株式会社 取締役 最高執行責任者(COO) 

東京大学大学院(建築学専攻)修了後、スイスの建築設計事務所(Herzog & de Meuron)にて建築家として従事。2015年よりベイン・アンド・カンパニーで戦略コンサルタントとして大手企業の経営支援に携わる。2019年にスタートバーンへ参画し、事業開発および広報領域を管掌している。

イベント展開と、水面下で深化する「モノの証明」

NFTMedia編集部(以下、編集部):直近のプレスリリースでは、「ムーンアートナイト下北沢 2026」や国宝「伎楽面」をテーマとしたNFT体験を発表されていました。

ムーンアートナイト下北沢2026

直近のスタートバーンにおける取り組みでは、イベント系が多いのでしょうか。

スタートバーン太田圭亮氏(以下、太田):イベント系以外にも、水面下では公表できないプロジェクトが数多く進行しています。

どうしてもプレスリリース等で公表しやすい案件がイベント系に寄ってしまうため、社外からはそのように見えているのだと思います。しかし、依然として弊社の事業の軸は変わっておらず、基本的には「作品や商品の真贋証明・情報管理」がメインの事業です。

編集部:なるほど、表に出ていない巨大なプロジェクトが水面下で動いているのですね。

太田:そうなんです。アートやIP(知的財産)の文脈では、集英社や丹青社といった既存のクライアント様との取り組みをさらに拡張したり、より幅広いお客様に我々の仕組みを使ってもらうためのプロダクト作りを実直に続けています。

一方で、デジタルスタンプやデジタルチケットといった「体験の証明」事業も比較的伸びています。こちらは共催や企画の段階からスタートバーンが深く関わっているケースが多く、表に出しやすい案件として目立っている形ですね。

東京国立博物館でのデジタルスタンプを活用したカスタマーロイヤリティの試みも、すでに2回目の実施を数えています。

17自治体での大規模展開や、大手メディアの裏側を支える技術

編集部:直近では、観光や自治体との取り組みも非常に増えていると伺いました。

太田:はい。直近では大規模な案件を多く手掛けるようになっています。

代表的な事例のひとつが、関ジャニ∞(SUPER EIGHT)の村上信五さんが考案したNFT アプリ「GIVE & MAKE」です。このアプリの裏側のシステムは、すべてスタートバーンが提供しています。

この「GIVE & MAKE」は、大阪観光局と日本各地の自治体がタッグを組んで各地の魅力を発信する「日本の観光ショーケース」事業の一環として採択されました。デジタルスタンプラリーの機能が備わっており、各地を巡ってスタンプを集めると特別なボイスコンテンツが得られる設計になっています。

編集部:表側からは一見Web3と分からないような形で、自然に導入されているのですね。

太田:そうですね。基本的には自社アプリである『Startrail PORT』または『FUN FAN NFT』を活用していますが、裏方に徹してシステムを提供するケースも増えています。

それ以外にも、四国での観光スタンプラリー案件に採択されたり、まだ未公表の自治体系・観光関連のプロジェクトが数多く進行しています。

もう一つ、読売新聞がアナログ時代から長年提供している『鉄印帳(てついんちょう)』という、鉄道のご朱印帳のようなスタンプラリーサービスがあります。3年ほど前にこれをデジタル化する際、我々がNFT技術を用いたシステムを構築させていただきました。

これも最近、事業として非常に大きく成長してきています。

スタートバーンとしては「モノの証明」がコア事業であり、体験証明(スタンプラリーなど)はそこに付随するシナジーとして捉えていました。

しかし、特に日本はスタンプラリーの需要が非常に強いという独自の背景もあり、このコンテクストの中で予想以上に事業が伸びてきていると感じています。

2027年アパレル規制「DPP(デジタルプロダクトパスポート)」への挑戦

編集部:アートや芸術文化の領域からスタートした貴社ですが、現在はそのスコープも変化しているのでしょうか。

太田:非常に大きく広がっています。最近はアートに留まらず、もっと抽象的な「物理的資産(フィジカルアセット)の商品情報管理」に我々のブロックチェーンの仕組みを使いたい、という問い合わせが急増しています。2026年、2027年にかけて、その他領域の大きな発表をいくつもできると考えています。

その一例として、すでに小規模で発表を始めているのがアパレル業界の「DPP」対応です。

DPPとは「Digital Product Passport(デジタルプロダクトパスポート)」の略で、現在ヨーロッパ(欧州)で法制化が進んでいる仕組みです。簡単に言うと、商品のトレーサビリティ(追跡可能性)やサステナビリティ(持続可能性)に関する情報を共通のプラットフォームに記録し、ユーザーが開示できるように義務付ける法律です。

例えば服であれば、「どこの何の素材を使っているのか」、「製造にどれだけの水やCO2が消費されたか」「修理やリサイクルをするときはどうすればいいか」といったこれまでブラックボックスだった情報を、すべて記録してユーザーに伝えなければいけないというルールです。

編集部:複数の事業者をまたぐサプライチェーンの記録となると、まさにブロックチェーンの出番ですね。

太田:おっしゃる通り、非常に相性が良いです。

ヨーロッパで販売される可能性のある商品はすべて対象となるため、日本のアパレル事業者も対応を迫られています。

特にアパレルに関しては「2027年からの義務化」が基本路線となっているため、今まさに問い合わせが殺到している状態です。

我々が元々持っていた美術品向けの証明書の仕組みを少しカスタマイズし、このプロダクトパスポートとして使えないかという実証実験を、複数のブランドと進めています。

すでに先行事例として『YOKE(ヨーク)』というブランドとの取り組みを発表していますが、これを皮切りに、今まさに事業として本格的に立ち上げる準備を進めています。

AI時代の到来がもたらした、クリエイティブ保護への強い追い風

編集部:アート以外の文脈でも、「モノの情報を正しく記録したい」という世の中のニーズ自体がここ数年で急激に高まっているのですね。

太田:はい、この数年は非常に強い追い風を感じています。その要因は主に2つあります。

1つ目は「AIの急速な発展」です。

AIによって誰もが簡単にコンテンツを作れるようになった反面、ブランドやクリエイター側には「自分たちのオリジナルのクリエイティブを守りたい」という強烈な防衛意識が生まれています。

今後、偽造品がさらに増えると言われている中、出版社では日本の強みであるマンガやアニメ、IP(知的財産)の領域で本当に危機感を持たれており、それを守るためのご相談が以前より確実に増えています。

2つ目は、先ほどのDPPのように「世の中の流れとしてモノの情報をちゃんと開示しよう」というポジティブな透明性を求める方向性です。

これまでは見えなかった情報を可視化して、それを新しい付加価値とするポジティブな流れができています。

原産地証明や原料の追跡など、我々のサービスとの相性は完璧だと感じており、以前よりも事業展開が非常にやりやすくなったと実感しています。

編集部:今後の展開や長期的なビジョンについて、お聞かせください。

太田:スタートバーンのメインの思想は、あらゆる物理的なモノや場所にこだわり、そこに関する情報を正しく管理することです。これはNFT業界の中では珍しいアプローチかもしれませんが、ここを揺るぎなくやっていきます。

その上で、今後もう一度しっかりと形にしなければいけないと考えているのが「2次流通・2次利用における還元金の仕組み」です。

現在は事業者がモノを売る「1次流通」のタイミングで証明書をつけるケースが多いですが、ブロックチェーンの本当の価値は、2次、3次と流通が引き継がれていったときにこそ発揮されます。現状、そこを完璧にコントロールしてクリエイターに還元する仕組みが社会全体で盤石にできているわけではありません。

しかし今、ステーブルコインの普及などにより、かつてのように「すべてクリプト(暗号資産)で決済するのは現実的じゃないよね」と言われていた世界観から、インフラが劇的に進化しています。

還元金の仕組みを実装し、二次流通のインフラを現実に落とし込むことは、創業初期から変わらない我々の絶対的な使命です。選択肢としてこの仕組みが市場にあるだけで、クリエイティブ産業の未来は大きく変わると信じています。

編集部:アートの真贋証明から、世界の産業インフラ、そしてクリエイターへの還元へ。今後のスタートバーンの展開がますます楽しみになりました。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

スタートバーンの近況を知って最も驚かされたのは、創業時と比較して事業展開の幅が大きく拡がっている点だ。一時期のNFTバブルが落ち着きを見せる中、同社はブームに左右されることなく、「物理的なモノの情報をブロックチェーンで担保する」というコアな思想を実直に深掘りし続けていた。

特に、2027年から欧州で義務化されるアパレルのデジタルプロダクトパスポート(DPP)へのアプローチは、Web3技術がいかにして現実の国際法規制やサプライチェーンの課題を解決するかの、極めて明快な回答である。また、AIの台頭によってオリジナルクリエイティブの価値証明が叫ばれる昨今、同社の技術に対する社会的な要請はさらに高まっていくに違いない。

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