【イベントレポート】JPYC岡部典孝氏が高校生に特別講義|この裏で進行するプロジェクトとは

2026年7月16日、JPYC株式会社の代表取締役である岡部典孝氏が、千葉県立茂原高等学校の1年生約160名を対象にオンライン特別講義を実施しました。

講演タイトルは『未来のお金JPYCと、君たちのキャリア・茂原の未来』。この取り組みは、同校の地域連携型キャリア教育「茂高街塾(もこうまちじゅく)」の一環として行われました。

この「茂高街塾」とは、千葉県茂原市を「住み続けられるまち」にするため、地域の課題を発見・解決する力を養う高校生向けの探究プログラムです。

なぜ今、ステーブルコイン発行企業のトップが地方の高校で講義を行ったのか。本記事では、この特別講義の背景にあるプロジェクトと、当日の講義内容をレポートします。

講演のタイトル「未来のお金JPYCと、君たちのキャリア・茂原の未来』
開催日2026年7月16日
開催場所千葉県立茂原高等学校
受講者数1学年生徒 約160名
主催茂高街塾

特別講義の背景にある茂原発の地域DXプロジェクト

今回の特別講義は、単発の講演イベントではありません。その背景には、地域や商工会議所で使える決済手段を普及させようという取り組みがあります。

地方の課題を商工会議所が解決する

事の始まりは、2026年4月にさかのぼります。東京の有楽町にて、以下のメンバーが集結しました。

  • ONIちゃん
    (まちサーガ ファウンダー、茂原商工会議所 まち✖️仕事ラボ 委員長)
  • 株式会社サンロフト(Thanks Card運営企業)
  • ヒオキン(カバードピープル ファウンダー)
  • 株式会社NFTMedia(NFT専門メディア「NFT Media」の運営企業)

議論された内容は、地方の商工会議所が直面する以下の課題についてです。

若者の地域離れ・・・高校生・若年層の地域活動への参加が年々減少している
紙の地域振興券の非効率さ・・・印刷・配布・回収・換金・集計に多大なコストと人的負担を要する
商店街と若者の断絶・・・商店街の顧客層が高齢化する一方で、若者が立ち寄る機会が少ない

そこで商工会議所が抱える課題をまとめて解決するために、JPYCを活用した地元密着型の決済手段を検討しました。

このような経緯で挙げられたのが、株式会社サンロフトが提供するスタンプラリーNFT「サンクスカード」に決済機能を組み込むアイデアです。従来は紙で発行していた地域振興券をJPYCで給付し、QRコード決済で支払う仕組みが発案されました。

ステーブルコインで実現する三方良しの関係

地域振興券をステーブルコインで発行すると、関与するすべての当事者が以下の形でメリットを享受できます。

【商工会議所】
商工会議所にとっての最大の価値は、地域のお金の流れの「見える化」です。従来の紙の振興券では、「どの店にどれだけお金が流れたか」の把握に数週間かかることもありました。これに対してJPYCを活用すると、「誰が・いつ・どの店で・いくら使ったか」が即座にデータ化されます。

これにより、勘と経験だけに頼らないエビデンスに基づいた地域振興策の立案が可能になります。また、紙の振興券にかかっていた印刷・回収・換金・手作業集計のコストや人件費も大幅な削減が可能です。

商店街・協力店舗】
地域振興券の受け手である商店街・協力店舗にとっては、JPYCを受け取った人が使える場所を求めて来店するため、これまで接点のなかった消費者の流入を期待できます。

参加店舗の負担は最小限で、レジ横にQRコードを置くだけです。決済はスマホでQRを読まれるだけで完了し、日次・月次の集計は完全に自動化されます。

【若者(高校生)】
若者の地域活動への参加によって地域振興券を付与する仕組みも可能です。これにより参加者は、JPYCという「目に見える形」で報酬を受け取れます。自分が関わった取り組みによって地域限定で使える通貨を得られるため、地元への愛着と定着意欲を高めます。

このような構想をもとに、地域振興券をJPYCで発行し、高校生に実際に使ってもらうプロジェクトが始動しました。

高校生が使いながら学ぶ、3フェーズの実証実験

今回のアイデアを前に進める上で実証実験として提案されたのが、「高校生が対象店舗でJPYCを使ってお買い物体験をする」企画です。具体的には、以下の一連の流れを高校生が実際に体験します。

  • 高校生が地域に貢献する
  • JPYCが付与される
  • 地元商店街で高校生がJPYCで支払う

この実証実験は「セミナーで学ぶ」「お店で実際に使う」「レポート・発表会」の3フェーズで構成されており、高校生がJPYCに触れながら学びを深める設計です。

さらに、高校生がノーコードツールを活用して地元店舗の課題解決アプリを自ら開発し、JPYCによる決済機能を組み込む実践的なDX学習も行われます。

「教わるだけ」の授業ではなく、地域の実課題に取り組む本物のプロジェクト型学習である点が大きな特徴です。JPYCの岡部氏による特別講義は、その第一歩として位置づけられました。

JPYC岡部典孝氏が高校生に語った起業の軌跡

講義は、オンラインで参加している岡部氏にONIちゃんが問いかける対談形式で進行しました。JPYCについて説明しつつ、岡部氏の起業に至るまでの道のりを紐解いていく構成です。

この記事では、岡部氏がJPYC株式会社の起業に至った背景を中心に紹介します。

原体験となった高校の文化祭

岡部氏のお金への関心の原点は、高校時代にありました。

高校では寮生活を送っていたものの、校則によりパソコンを持ち込めなかったそうです。そこで当時台頭し始めたパソコンをなんとか所有できる方法はないかと考えたところ、パソコンの所持が認められる文化祭の会計委員に立候補したそうです。

そして予算管理や銀行への現金搬送を経験する過程で、「お金を扱う面白さ」に気づきます。このようなきっかけから、一橋大学の経済学部への進学を決めたといいます。

「ルールの範囲内で何とかする」という突破力は、この頃から培われていたと岡部氏は振り返りました。

1社目はゲーム内通貨の「両替商」

大学在学中、インターネット黎明期に岡部氏が始めたのは、オンラインゲーム間の仮想通貨を両替・仲介するビジネスでした。

「例えばドラゴンクエストのお金を、ファイナルファンタジーのお金に換える仕事です。」と岡部氏は語ります。ゲームに熱中しすぎて大学には通わなくなり、そのまま起業の道へ。

その後は約15年間、プリペイド式電子マネーやポイントシステムのエンジニアとして数多くの「お金」を開発・実装し、技術と法律の知識を蓄積していきました。

お金は特別なものではなく、法律の範囲内なら作ろうと思えば作れる。このような実感が、のちのJPYCにつながります。

2社目の経営で「タイミングがほぼすべて」と学ぶ

その後は2社目となる会社を立ち上げ、「歩くとポイントが貯まる」仕組みを構築します。しかし、時代が早すぎてビジネスとしては苦戦。上手くいかない事業モデルなのかと思われましたが、なんと約5年後には別の会社が同じコンセプトのサービスで世界的なヒットを記録しました。

「早すぎても駄目だし、遅すぎても当然駄目。タイミングって本当に大事なんです」と、当時の経験から得た教訓を語ります。

岡部氏はこれを徒競走の「よーいドン」に例えて説明しました。ビジネスはいつ号砲が鳴るかわからないレースであり、スタートラインに立っていなければ勝負にすらならない。一方で早くスタートラインに立ちすぎると、号砲が鳴る前に疲弊してしまう。「そろそろ始まりそうだ」という感覚は、経験の積み重ねによって養われると語ります。

3社目のJPYCでは法整備の「直前」にスタートラインへ

そして、これまでの経験を活かして2019年に立ち上げた3社目が、JPYC株式会社です。ステーブルコインに関する法整備が進む気配を察知し、法律成立の直前にスタートラインに立つことで先行者優位を確立しました。

ただし、金融庁のライセンス取得までには3年を要しました。高校生活とほぼ同じ長さの期間、なぜ諦めずに続けられたのか。ONIちゃんからの問いかけに、岡部氏は2つの理由を挙げます。

「一つは、投資家の方からお金を預かっている責任感です。人様のお金を受け取って『やるぞ』と約束した以上、規制が難しいからチャレンジしないでやめます、というわけにはいかない。もう一つは、この分野は自分が一番やるべき人間だという自信がありました」

現在、JPYCの流通残高は約76億円規模(9月3日時点)。7月16日時点では約60億円規模の資金調達も実施しており、岡部氏は「今は10億の桁のビジネス。これを100億、1,000億、兆の単位へと、桁を上げていくことに挑戦している」と今後の展望を語りました。

岡部氏が語った高校生へのメッセージ

講義の終盤、岡部氏は高校1年生に向けて、いま行動することの価値を熱く語りました。

「私はちょうど検索エンジンが出てきた世代で、上の世代が本で学んでいたことをインターネットによって効率的に学べました。そして今の高校生はAIが使えます。AIを使って調べる、問題を解くという能力は、むしろ上の世代より高校生の方が上。年齢や性別、職歴に関係なく、この分野は自分がやるんだと決めてAIを活用して徹底的に調べれば、意外と早くチャンスが巡ってきます」

実際に、JPYC株式会社でも初代CTOを当時17歳の若者が務めたり、法務分野で司法試験を目指す高校生が活躍していたりと、若手でも十分に活躍できると言います。

さらに、高専の学生がJPYCを使ったQRコード決済システムをわずか3日で開発した事例も紹介し、「文化祭の模擬店でJPYC決済に挑戦してみては」と生徒たちに提案しました。

一方で、「楽に稼げる」とうたう闇バイトには絶対に乗らないよう強く注意喚起する場面もあり、お金のプロフェッショナルとしての誠実な姿勢が印象的でした。

「大学院レベル」岡部氏が舌を巻いた高校生からの質問

講義後の質疑応答では、各クラスの生徒から次々と質問が挙がりました。その内容の鋭さに、岡部氏が思わず「大学院レベルの質問かもしれない」と舌を巻くほどでした。

ここでは、その中からいくつかの質問を紹介します。

Q. AIの発達や他国からのサイバー攻撃によって、ステーブルコインのセキュリティリスクが増えていくのではないかと考えますが、どのようにお考えですか?

岡部氏:実は攻撃は今、めちゃくちゃ増えています。2024年には国内の大手暗号資産取引所が外国からのサイバー攻撃を受けて約482億円相当を盗まれ、その会社は潰れてしまいました。

我々はブロックチェーン上で日本円を発行している会社なので、当然攻撃対象です。だからセキュリティ専門の人材を雇い、守ることを社会的責任として取り組んでいます。

Q. 給料が上がらない中で、どのようにお金を増やせばいいですか?

岡部氏:生活に密着した良い質問ですね。実はお金の全体量が増えて給料が上がっても、それ以上に物価が上がったら生活は豊かになりません。これがインフレです。だから給料を上げることを目標にするのではなく、みんなの役に立つ物やサービスを生産することに集中してください。給料は結果です。

最後は生徒代表が「今日教えていただいた知識を、これからの活動にしっかり生かしていきたい」と謝辞を述べ、約50分の特別講義は幕を閉じました。

次は商店街でJPYC払いへ

今回の特別講義を皮切りに、プロジェクトは実践フェーズへと進みます。

次のステップは、高校生が実際に茂原の商店街でJPYC払いを体験することです。サンクスカードアプリでJPYCを受け取り、対象店舗に設置されたQRコードを読み取って支払うという、ステーブルコイン決済のリアルな体験が待っています。

今後のロードマップ

生徒たちは体験を記録・分析してレポートにまとめ、商工会議所や事業者の前で発表する予定です。「どの店に、いつ、いくらお金が流れたか」がリアルタイムでデータ化されるステーブルコイン決済の特性を活かし、高校生の生の声とあわせて地域経済の実態を可視化します。

そして、この実証実験で得られた知見をもとに、商工会議所や地域の商店街連合で活用できるステーブルコイン払いの仕組みを実装していくことが、プロジェクトの最終的な目標です。

今回は飲食店中心の実証ですが、今後は文具・書籍・スポーツ施設などへ業種を段階的に拡大し、行政とも連携しながら、地域デジタル通貨導入の足がかりとすることが構想されています。

紙の地域振興券が抱える印刷・回収・集計コストの課題を解決し、若者と商店街の接点を生み出すステーブルコイン活用モデル。「高校生が地域のDXを牽引する」という茂原発の取り組みが、全国の商工会議所・自治体のモデルケースとなるか、今後の展開に注目です。

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