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NFTやブロックチェーン技術が多様な業界へ浸透する中、農業という伝統的な領域でWeb3の社会実装に挑む企業が「株式会社農情人」である。
株式会社農情人は、独自のコミュニティ運営やNFTを活用し、これまでの農産物流通にはなかった新たな価値や体験を創出している。同社の取り組みは、単なる一過性のトレンドにとどまらず、農家が抱える構造的な課題に寄り添った中長期的な支援モデルとして注目を集めている。
本記事では、代表である甲斐 雄一郎氏に、農業NFTプロジェクト誕生の背景や具体的な事例についてインタビューを行った。
Contents
稼げる農業を目指して──タイの農村での原体験
NFTMedia編集部(以下、編集部):早速ですが、甲斐さんはどのようなきっかけで農業分野で活動されるようになったのでしょうか。
甲斐雄一郎(以下、甲斐):私の祖父がもともと米農家をやっていたというルーツがあり、現在も父が自家消費用にお米作りを継続して田んぼを維持している背景がまず一つあります。
私が農業に深く興味を持ち始めたのは、大学生だった2008年夏にタイの農村を訪れたことがきっかけです。1週間ほどの滞在でしたが、そこで「農業では稼げないから10代の若者が都市部へ出稼ぎに行かざるを得ない」という農村のリアルな現状を知りました。
編集部:現地で目の当たりにした貧困の課題が原動力になっているのですね。
甲斐:そうなんです。
もし農業でしっかりと稼ぐことができれば、親元を離れてリスクのある場所へ行かなくても済むのではないか。そういった思いから「農業」を軸に活動を始め、いずれはアジアをベースに展開していきたいという強い思いを持って独立に至りました。
農業×NFTの誕生──農産物の付加価値を高める挑戦
編集部:そこから、現在注力されているブロックチェーンやNFTといった技術を知ったのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
甲斐:NFTを知ったのは2021年の夏頃です。
とある音声配信で「NFT」の技術や可能性についての話を聞いたことがきっかけです。当初は技術的なことまでは深く分かっていなかったのですが、それを使うことで付加価値をつけて販売できる仕組みがあると知りました。
そこから「農業にNFTを掛け合わせて何かできるのではないか」と考え、2021年12月頃に農業NFTの構想を思いつきました。当時はまだ「木の権利をNFTにして売る」といった事例が1件あるかないかという時期でしたね。
編集部:農業とNFTの組み合わせとは、独創的なプロジェクトですね。
甲斐:2022年からは、スイカやマンゴー、シャインマスカットといった農産物にNFTを設定して単価を上げる取り組みを続けてきました。実際に、通常8,000円で売っているマンゴーを平均価格2万4,000円程度で販売できた成功事例もあります。
しかし、付加価値を付けたとしても2〜3倍の価格が上限であり、農家にとって劇的な収益増になるわけではないという限界も感じていました。そこがずっと課題としてありましたね。
参考)プレスリリース 価格を決めるのはあなた! NFT体験型農園プロジェクト、『値段を決めてイーサ』始動
1本10万円の「接ぎ木NFT」──共感で繋がる中長期の支援
編集部:その課題を乗り越えるために直近で取り組まれているのが、「接ぎ木NFT」ですね。これは具体的にどのようなプロジェクトなのでしょうか。
甲斐:2025年2月から、ミカン農家と一緒に始めたプロジェクトです。
果樹の樹木そのものではなく、「接ぎ木の枝」を1本10万円という価格でNFTとして販売しました。いただいた資金は、農家が日々接ぎ木を管理するための人的コストに充てていただく形です。
編集部:1本10万円というのは大きな支援ですね。NFTの購入者の方々は、どのような層の方なのでしょうか。
甲斐:農業を応援したいという熱意を持った人が集まっています。
実は、当初は2025年4月に接ぎ木をして2年後の2027年4月に収穫する予定だったのですが、農家さんから「2年で収穫してしまうと樹のエネルギーを消費しすぎて今後の収穫量が落ちてしまう」という見解をいただきました。
そこで、NFTのオーナーたちに「もう1年収穫を延ばしませんか?」と投げかけてみたんです。どう転ぶか不安もあったのですが、「中長期目線で3年後の2028年でいきましょう」と皆さん快く受け入れてくださいました。
農業のリアルな実情を理解し、共感して応援してくれるコミュニティの力には本当に驚かされましたね。
世界牛乳の日プロジェクト──参加体験を証明する

編集部:この他にも、「世界牛乳の日」に合わせた取り組みもされていると伺いました。
甲斐:「世界牛乳の日 NFTデザインコンテスト」は、島根県出雲市の酪農家と2年前から始めた取り組みで、今年で3回目になります。
6月1日は「世界牛乳の日」ということで、牛乳を飲んだり写真をアップしたりと、一定の条件を満たして参加してくださった方に、参加証としてのデジタル証明(NFT)をプレゼントするという企画です。
今年は間口を広げて「親子」をテーマにし、手書きの絵を描いて参加していただいた方に参加賞をNFTとして送ろうと企画しています。
NFTの受け渡しはGoogleアカウントでログインして受け取れる設計にするなど、誰でも参加しやすい仕組みを実現しました。毎年継続して参加してくださる方には、例えば「5年連続参加で特別な体験を提供する」といった、ブロックチェーンの永続性を活かしたインセンティブ設計も可能になります。
大企業との協業の壁と、コミュニティ起点の新たな可能性
編集部:このようなコミュニティ起点の実績は、企業からの注目度も高そうです。法人との事業提携などの可能性はありますか。
甲斐:大手企業からも、「同じようなことをやりたい」というお問い合わせをよくいただきます。
ただ、いざ具体的に詰めていくと、社内の理解を得るのが難しくPoC(実証実験)の検討段階で止まってしまうケースが多いですね。日本のWeb3市場におけるアクティブ層は肌感覚で数千人規模とニッチなため、「これで何百万円の売上が立つのか」という事業計画が描きづらいのが一番の要因です。
編集部:そうなのですね。現状では、どのような形での協業を求めていますか。
甲斐:無理にNFTを売るのではなく、私たちの持つ「農業×Web3の先端的なコミュニティ」をテストベッドとして活用していただく協業に可能性を感じています。
例えば、農家向けのロボットやAgTech(農業テック)を提供している企業が、現場のリアルな声を集めてプロダクトを改善したい時など、非常に相性が良いはずです。
農業という伝統産業に、AIやWeb3、メタバースといった技術を一つ掛け合わせるだけで、全く新しい価値が生まれます。そういった新しいビジネスの創出に共感し、共にチャレンジしたいと考えてくださる企業がいらっしゃれば、ぜひコラボレーションしていきたいですね。
編集部:農業と最新テクノロジーが交差する大変興味深いお話をありがとうございました。
インタビューを終えて
「農業×Web3」と聞くと、一見すると結びつきづらい遠い領域のように思えるかもしれない。しかし、甲斐氏が率いる農情人は、ブロックチェーン技術を単なる投機や資金調達のツールとしてではなく、「農家の労力への共感」や「継続的な支援の証」として社会実装している。
収穫を1年遅らせるという農家からの提案に対して、コミュニティのオーナーたちが快諾したというエピソードはWeb3が持つコミュニティの力と本質的な価値を如実に物語っているだろう。
【プロフィール】
甲斐 雄一郎(Yuichiro Kai)株式会社農情人 代表取締役。
祖父が米農家だった背景から農業に関心を持ち、学生時代の東南アジア訪問を機に「稼げる農業」の実現を志す。現在はWeb3技術やNFT、コミュニティを活用し、次世代の農業モデル構築や農産物の付加価値向上に尽力している。
- 株式会社農情人 公式サイト :https://noujoujin.com/
- 株式会社農情人 Xアカウント:https://x.com/noujoujin
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