【ERC-4907とは】NFTの貸し借りを可能にするトークン規格をわかりやすく解説

ERC-4907とは、NFTの「所有者」と「利用者」を分離し、NFTのレンタル(貸し借り)を可能にするイーサリアムのトークン規格です。

NFTレンタルマーケットプレイスのDouble Protocol(ダブルプロトコル)の開発チームが提案した改善案「EIP-4907」が、2022年6月28日にイーサリアム開発チームの最終審査を通過し、30番目のERC規格として「Final(正式承認)」となりました。

承認から数年が経過した現在、ERC-4907はNFTゲームやメタバースにおけるオンチェーンレンタルの標準部品として定着し、さらに近年はRWA(現実資産)の期間限定利用権の管理といった新しい用途にも応用が広がっています。

本記事では、前提となる主要トークン規格のおさらいから、ERC-4907の仕組み、そして2026年時点での活用状況までをわかりやすく解説します。

前提知識:ERCと主要トークン規格

ERC(Ethereum Request for Comments)とは、イーサリアム上でトークンやアプリケーションを開発する際に使われる共通規格です。

新しい規格は、まずEIP(Ethereum Improvement Proposals:イーサリアム改善提案)として提案され、コミュニティでの議論・審査を経て「Final」ステータスに到達すると、正式な標準として広く実装されるようになります。ERCはEIPのうち、イーサリアムのプロトコル自体には変更を加えない、アプリケーション層の規格を指すカテゴリーです。

ERC-4907を理解する前提として、特に重要な3つの規格を押さえておきましょう。

ERC-20とは

ERC-20は、イーサリアム上で代替可能トークン(FT:Fungible Token)を発行するための統一規格です。2015年11月に提案されました。

ERC-20の登場により、ブロックチェーンを1から設計しなくても、誰でもイーサリアム上で独自トークンを発行できるようになりました。規格が統一されているため、異なるトークンを1つのウォレットでまとめて管理できる点も大きなメリットです。ステーブルコインやガバナンストークンなど、現在流通するトークンの多くがこの規格に準拠しています。

ERC-721とは

ERC-721は、NFT(非代替性トークン)を発行するための統一規格です。2018年に正式承認されました。

数量(Value)で管理されるERC-20とは異なり、ERC-721は1つひとつのトークンに固有のID(Token ID)を持たせることで「唯一性」を実現しています。NFTアートやコレクティブル、ゲームアイテムなど、現在発行されているNFTの多くがこの規格をベースにしています。

後述するERC-4907は、このERC-721を拡張した規格です。

ERC-1155とは

ERC-1155は、FTとNFTの両方を1つのコントラクトで扱える「マルチトークン規格」です。ゲーム内通貨(FT)とゲームアイテム(NFT)を同時に扱うブロックチェーンゲームでの実用性を考慮して、Enjin社CTOのWitek Radomski氏らによって提案されました。

複数種類のトークンを一括で転送できるため、トランザクション回数を減らし、ガス代(手数料)を抑えられる点が特徴です。

新たなトークン規格「ERC-4907」とは

ERC-4907は、ERC-721を拡張し、NFTに「レンタル」の仕組みを標準機能として組み込んだ規格です。EIPの著者は0xanders氏、Lance氏、Shrug氏で、NFTレンタルマーケットプレイス「Double Protocol」の開発チームにあたります。

仕組み:「所有者」と「利用者」のデュアルロール

ERC-4907の中核は、NFTに関わる役割を以下の2つに分離する「デュアルロール(Dual-Role)」構造です。

  • Owner(所有者):NFTの所有権を持ち、売却・譲渡・レンタル設定などが行える
  • User(利用者):NFTを「使う」ことだけができ、売却や譲渡はできない

さらに、利用期限を設定する「expires」機能が組み込まれており、設定した期限が来ると利用者の権利は自動的に失効します。

この設計により、次の2つの課題が同時に解決されました。

  1. 貸し手のリスク排除:借り手には譲渡・売却の権限がないため、貸したNFTを持ち逃げ・転売される心配がない。従来必要だった担保(コラテラル)なしでの「無担保レンタル」が可能になった
  2. 返却手続きの自動化:期限が来れば権利が自動失効するため、貸し手が手動で回収するトランザクションが不要。手間とガス代の両方を削減できる

また、ERC-4907はERC-721と後方互換性があるため、既存のNFTコントラクトも拡張によってレンタル機能を追加できます。コントラクトをアップグレードできない既存コレクションについても、元のNFTを包む「ラップドトークン」方式でレンタルに対応させるアプローチが用意されています。

なお、ERC-1155(マルチトークン)向けには、同じくDouble Protocolチームが提案した姉妹規格「ERC-5006」が存在します。

活用方法

ERC-4907によるNFTレンタルは、主に以下のような場面で活用できます。

  • ブロックチェーンゲーム:高額なゲーム内NFT(キャラクター、アイテム、土地など)を借りてプレイする。初期投資のハードルを下げ、新規プレイヤーの参入障壁を下げられる
  • メタバース:仮想空間の土地NFTを期間限定で借り、イベント会場や店舗として利用する
  • コミュニティ・イベント参加権:特定NFTの保有者だけが入れるコミュニティや限定イベントに、レンタルで一時的に参加する
  • 保有NFTの収益化:使っていないNFTを貸し出すことで、所有権を手放さずにレンタル収入を得る

ERC-4907はどう使われているか

承認から約4年が経過した2026年時点の状況も見ておきましょう。

定着した「標準部品」としてのERC-4907

規格提案の背景にあった2021〜2022年当時のPlay to Earn(P2E)ブーム、特にゲームギルドが高額NFTを購入してプレイヤーに貸し出す「スカラーシップ」の隆盛は、その後のNFT市場の調整とともに一巡しました。当時期待されたような巨大な「NFTレンタル経済圏」が単独で成立したとは言い難いのが実情です。

一方で、ERC-4907自体は淘汰されることなく、ゲームやメタバース分野のオンチェーンレンタルを支える標準部品として定着しています。提案元のDouble Protocolは現在もユーティリティNFTのレンタルマーケットプレイスを運営しており、ゲーム内アイテムやメタバースの土地NFTなどのレンタルに活用されているほか、複数のチェーンやエコシステムとの連携も進めています。

開発者にとっては、実装がシンプルで監査しやすく、ERC-721やロイヤリティ規格(ERC-2981)とも組み合わせやすい点が評価されており、「所有」と「利用」を分離したいユースケースでの定番の選択肢となっています。

新たな応用先:RWAの「期間限定利用権」

近年注目されているのが、RWA(Real World Asset:現実資産)分野への応用です。

トークン化された不動産や設備、ストレージなどにおいて、「一定期間だけ利用権を付与する」というニーズは本質的にレンタルそのものです。ERC-4907のデュアルロールと自動失効の仕組みは、こうした期間限定アクセス権の管理に適しており、コンプライアンス対応のトークン規格(ERC-3643など)と組み合わせて「適格な利用者にのみ貸し出す」といった設計も提案されています。

NFT=コレクティブルという文脈を超えて、「権利の期間管理」のためのインフラとして再評価が進んでいると言えるでしょう。

周辺技術との棲み分け

「NFTを所有したまま、別のウォレットやユーザーに使わせたい」というニーズに対しては、ERC-4907以外のアプローチも登場しています。代表的なのが、保管用ウォレットの資産の利用権限を操作用ウォレットに委任するデリゲート(委任)サービスや、NFT自体がウォレットとして機能するトークンバウンドアカウント(ERC-6551)です。

これらは厳密にはレンタル規格ではありませんが、「所有と利用の分離」という同じ課題意識から生まれた技術であり、ユースケースに応じてERC-4907と使い分けられています。

まとめ:ERC-4907は「所有と利用の分離」を実現した基盤規格

ERC-4907は、NFTに「利用者」という役割と「自動失効する利用期限」を追加することで、安全な無担保レンタルを可能にしたトークン規格です。

2022年の承認当時はP2Eゲームのスカラーシップ需要を背景に注目を集めましたが、ブームの終息後も標準部品として定着し、現在はゲーム・メタバースのレンタルに加え、RWAの期間限定利用権の管理という新しい領域にも応用が広がっています。

「所有権はそのままに、利用権だけを流通させる」という発想は、NFTが単なる投機対象から実用的な権利管理のインフラへと進化していくうえで欠かせない要素です。今後、ゲームアイテムから現実資産まで、さまざまな「借りる」体験の裏側でERC-4907が使われていくことになるでしょう。